夜明け前の君よ

もうさ、何がツラいってさ、自分を偽んなきゃいけないのがツラいよね。

自分じゃない自分をやり続けるのがしんどい。

そして、自分じゃない自分をやり続けた結果、もはや自分がわからなくなるという。

 

もうさ、ありのままの自分でいるだけですよ、真の願いって。

お金だとか結婚だとか就職だとか。

もういいよ全部。

 

お金のために自分を曲げる、結婚のために自分を曲げる、就職のために自分を曲げる。

それって本当に幸せかねぇ?

幸せというより、不安から逃げたいだけだよね。

 

本当の自分と引き換えに、安心を手に入れる。

幸せを手に入れるのではなく、不安をなくすほうを選ぶ。

魂を殺して、肉体の存続を手に入れる。

 

死ぬためだけに、生きている。

 

 

今、ぼくらは、飛び込み台の上にいる。

飛び込み台の上で、立ちすくんでいる。

 

ここまでは来た。

はるばるはしごを上って、ここまでは来た。

 

あわてる必要はない。

ちゃんと準備を整えて、時が来たら飛び込むんだ。

ホイッスルが鳴ったら、飛び込むんだ。

それまでは精神を集中し、準備を進めよう。

 

パーフェクトな演技を心に描き、ベストなパフォーマンスで着水する。

完璧だ。

 

今は準備の時。

時が来るのを、待つ時。

 

あせらなくていい、時は来る。

その時に備えて、しっかり準備しよう。

 

自分の順番は、必ず来る。

もう先に行った人、これから来る人、そして自分。

 

もう行っちゃった人のことは気にしなくていい。

これから来る人も、気にしなくていい。

自分の演技に集中しよう。

 

ベストなパフォーマンス。

最高の演技。

神に召される瞬間。

至福の恍惚。

 

体をほぐし、心を整え、その時を待とう。

自分の順番は、必ず来る。

いや、もうすぐそこに来ている。

 

飛び込み台の上から、下を見つめる。

高い…恐い…。

 

でも必ず、時は来る。

さなぎが必ず蝶になるように、夜が必ず明けるように。

 

さなぎは動かない。

夜明け前は一番暗い。

飛び込む前が、一番恐い。

 

今はその時。

恐くて当たり前だ。

 

もちろん、引き返すという選択肢はない。

それはよくわかっている。

そのつもりも微塵もない。

呼吸を整え、準備態勢に入る。

 

 

不思議と、恐くない。

全てが整った。

全てが完璧に、整った。

時は、来た。

 

 

時は来る。

必ず来る。

夜明け前の君よ。

 

不安を隠さなくていい。

恐怖に震えていい。

だって君は夜明け前だから。

 

今まさに夜が、明けようとしているから。

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