もうさ、何がツラいってさ、自分を偽んなきゃいけないのがツラいよね。
自分じゃない自分をやり続けるのがしんどい。
そして、自分じゃない自分をやり続けた結果、もはや自分がわからなくなるという。
もうさ、ありのままの自分でいるだけですよ、真の願いって。
お金だとか結婚だとか就職だとか。
もういいよ全部。
お金のために自分を曲げる、結婚のために自分を曲げる、就職のために自分を曲げる。
それって本当に幸せかねぇ?
幸せというより、不安から逃げたいだけだよね。
本当の自分と引き換えに、安心を手に入れる。
幸せを手に入れるのではなく、不安をなくすほうを選ぶ。
魂を殺して、肉体の存続を手に入れる。
死ぬためだけに、生きている。
…
今、ぼくらは、飛び込み台の上にいる。
飛び込み台の上で、立ちすくんでいる。
ここまでは来た。
はるばるはしごを上って、ここまでは来た。
あわてる必要はない。
ちゃんと準備を整えて、時が来たら飛び込むんだ。
ホイッスルが鳴ったら、飛び込むんだ。
それまでは精神を集中し、準備を進めよう。
パーフェクトな演技を心に描き、ベストなパフォーマンスで着水する。
完璧だ。
今は準備の時。
時が来るのを、待つ時。
あせらなくていい、時は来る。
その時に備えて、しっかり準備しよう。
自分の順番は、必ず来る。
もう先に行った人、これから来る人、そして自分。
もう行っちゃった人のことは気にしなくていい。
これから来る人も、気にしなくていい。
自分の演技に集中しよう。
ベストなパフォーマンス。
最高の演技。
神に召される瞬間。
至福の恍惚。
体をほぐし、心を整え、その時を待とう。
自分の順番は、必ず来る。
いや、もうすぐそこに来ている。
飛び込み台の上から、下を見つめる。
高い…恐い…。
でも必ず、時は来る。
さなぎが必ず蝶になるように、夜が必ず明けるように。
さなぎは動かない。
夜明け前は一番暗い。
飛び込む前が、一番恐い。
今はその時。
恐くて当たり前だ。
もちろん、引き返すという選択肢はない。
それはよくわかっている。
そのつもりも微塵もない。
呼吸を整え、準備態勢に入る。
不思議と、恐くない。
全てが整った。
全てが完璧に、整った。
時は、来た。
…
時は来る。
必ず来る。
夜明け前の君よ。
不安を隠さなくていい。
恐怖に震えていい。
だって君は夜明け前だから。
今まさに夜が、明けようとしているから。
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